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六枚落ち定跡(9筋攻め)の再現

(六枚落ちの話)
第五話 六枚落ち定跡−9筋攻めpart4

月刊誌である「将棋世界」に、プロの先崎八段が、駒落ちについて連載している。2002年9月号から始まったのだが、10月11月12月と三ヶ月に渡って、6枚落ちについて書いていた。その10月号、今回、話をする△4二玉△8四金型についていろいろと面白い手順等が載っているので、そちらも参考にしながら、進めていきたい。

初手より、左図までは、ずいぶん進めたが、△4二玉が違うだけで、後はまったく前回と同じ手順なので問題はないと思う。

この△4二玉と△3二金の違いが、9筋を破られて終盤に入ってから大きく関わってくる。
今回は、その違いを見ていくので、定跡講座と言う感じではない。9筋を破る定跡の手順は、前ページまでをきちんと勉強しておけば十分だろう。

さて、ここでも、次の一手は、やはり▲8四角だ。△同歩に▲9五飛と出れば、既に9筋を守る手はない。

一応、「駒落ち定跡」に、上図より▲9二香成の手順も載っているので、変化に入れておいた。▲9二香成(変化参照)△7三銀▲9三成香△7五歩▲同歩△5二金と言う手順。本にもあるように、今一つと言った感じで、下手が勝つのは大変だろう。

さて、ここで、△3四歩が、駒落ち上手を指し慣れている一手だ。△3二金△5一玉の形では、明らかに一手遅い。

それでも、下手は、同じように9筋から攻めるしかない。特に角を切ってしまっているので、飛車を成らす以外に手はないのだ。

図で、前回は、▲9二香成と成ったが、今回はどうか。▲9三香成が良いか、▲9二香成が良いかちょっと考えて見て欲しい。

(考慮タイム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
さて、前回、ちょっとした私の技を披露した。今回も、時々使い、しかも先崎八段も書いている上手のちょっとした工夫をお見せしよう。

それが左の図だ。一見同じように見えるかもしれないが、△6四歩と▲5六歩の交換が入っていない。これがいかに大きな意味を持つか、手順が進むと分かってくる。

同じように、▲8四角から進めてみよう。9手目△7三金からの変化を参照して欲しい。▲8四角△同歩▲9五飛△7三銀▲9三香成△3四歩▲8三成香△6四銀▲9二飛成△3三玉(下図参照)


この図は、△6四歩を突かなかったために、8二にいて負担だった銀がスムーズに6四へ出られたのである。左の局面は、ハッキリ言って、下手難局だ。ここから勝つようなら、もう六枚落ちは、完璧に卒業である。

とは言え、実際は、この局面では、まだ50点くらい持ち点を残している。ここから下手が勝つには、▲7八金(△4五角の守り)から▲3八金▲4八銀として、▲3六歩から金銀を繰り出していかなければならない。このような中終盤のねじり合いを六枚落ちの手合い差をものともせず勝ち切れれば、十分だという意味である。

では、このような局面になる前に、どうすれば良かったのだろうか。
先崎八段も書いているし、実は、「駒落ち定跡」にもちゃんと載っているのである。
上図から▲5五角がこの一手とも言うべき好手だ。銀を助けるために△7一銀と引くよりなく、▲9三香成で必勝である。

この変化について、2002年10月号の将棋世界で、先崎八段が、面白いことを書いているので、ちょっと長くなるが、紹介したい。

『(▲5五角の一手に対して)「なんだ、簡単じゃねえか」と腹を立てる方も多いだろう。だが、ひとつだけオソルベキことを付け加えておきたい。
私は、▲5五角と指されたことが3回しかない。ということである。
何十局、いや何百局と第14図
(この二つ上の図)の局面を指したが、そのほとんどが▲8四角と切って来るのだ。なぜ、記憶力が悪い私が3回としっかり覚えているのかというと、それだけ強烈に覚えているからである。
おそらく、角切りの印象があまりにも鮮明なために、無我夢中で角を切ってしまうのだろう。その気持ちは分からなくもない。しかしそのたびに、第13図
(上の図)になり、上手はホッとするのだ。
上手からすると、下手がどうせ角を切って来そうだと思ったら堂々と△6四歩を突かないことである。そのかわり、角を出られるんじゃないかとビクビクするという対価を払うことになる。
△6四歩と突けば無難だが、うま味がない。そこで私は、たいがい突かないで「通し」てしまうのである。これで今までどれほど楽をしてきたか。その罪ほろぼしに、これからは一人でも多くのアマチュアの方にすかさず角を出てもらい、苦しみたいのである。
』(以上茶色字抜粋)
△6四歩を突かない場合は、△9五歩に▲5五角が急所となる。このことだけをうろ覚えで覚えておくと、滅多に実戦には出てこないため(△6四歩は突く上手が多い)、思わぬところで間違えることになる。

前回、私が使うささやかなトラップ(罠)として、△9五歩の替わりに△7三銀を上げたが、△6四歩を突かずに△7三銀も良くやるのである(左図)。

そして、▲5五角という手があると言うことを知っていると、ここでも、▲5五角と出る子が多いのだ。△9五歩なら▲5五角で必勝だが、ここでの▲5五角(変化参照)は、△6四銀と出られ、▲6六角△7五歩で、あっと言う間に下手難局になってしまう。

前回の△7三銀と同じく、ここでの正着は▲9三香成だ。しかし、△6四歩を突いていないので、前回より上手にとって、紛れさせやすいとも言える。つまりいつでも△6四銀と出られるのが大きい。私は、この8四金型での△6四歩を突かない△7三銀を最後の卒業試験に使うことが多い。ここから勝ち切れれば、六枚落ちは、ほぼ卒業なのである。

定跡は、手順を丸暗記するのではない。あくまで、その手順の意味を知ることである。これは、今後、平手の定跡を勉強するようになっても、同じことが言える。駒を活用するために、どう指せば良いか、本質を見極めていって欲しいと思う。

さて、横道が長くなった。本手順に戻るが、もう一度、左に、△3四歩までの局面を載せておこう。

△3二金型の場合は、一手遅いので、まだ△3四歩が入っていない。その場合は、▲9二香成△7三銀▲9三飛成△6二銀▲8二龍で必勝だった。この場合は、どうなるだろう?

「駒落ち定跡」には、「▲9二香成△7三銀▲9三飛成△6二銀▲8二龍△5二金▲7五歩の順も有力です。ただ、この場合、成香を使いにくいのが不満です。」とある(変化参照)。

そして、▲9三香成を本手順としている。


▲9三香成△7一銀▲8三成香△6二銀▲9二飛成△5二金▲7五歩(左図)。

最後の▲7五歩では、▲7二成香もある(変化参照)。△5一銀▲6一成香△3三玉で、下手優勢ながら、まだ寄せきるまでには時間がかかる。

この後、△5四角と打って、上手も粘るが、と金と成香を寄せていき、金駒と交換できれば、後は寄せだけと言うことになる。

「駒落ち定跡」には、ここで示している手順の先まで詳しく解説されているが、ここから先は、定跡というより、寄せの部類に入るので、手順はここまでとしたい。

最終図も省略するので、再現棋譜を参照のこと。

ところで、ひとつだけ問題がある。

実は、「駒落ち定跡」の本には、22手目の「▲9三香成に△7一銀と引きましたが、△9三同銀▲同飛成△3三玉の変化もあります。下手優勢ながら、上手としてはこの方が勝りました。」とある。

はじめて読んだ時、「おいおい、上手最強の変化をつぶしてこその定跡じゃないのか!」と思わずツッコミを入れた場面だ。

しかし、それ以上のことは、この「駒落ち定跡」には書かれていない。

ところが、先崎八段の連載には、この局面が取り上げられている。しかも、上手最強の手段としてだ。▲9三香成△同銀(変化参照)▲同飛成△3三玉▲5三龍△4二銀▲6四龍(左図)。そして、先崎八段はこう言っている。

「下手が9筋攻めに出た場合、双方最善を尽くすとこの▲6四龍の局面になると思われる。あらためて図を確認して次に進んでほしい。それにしてもこの図。私にも分からない疑問を読者の方にぶつけてみようと思う。「果たしてこの図、六枚落ちの初形より下手が差を広げたと思いますか?」YESならば、やっぱりこの定跡は優秀だ、ということになるのだが・・・。」

もし、六枚落ちの指導をしている人がここを見ているのなら、私自身も意見を聞きたいので教えて欲しい。また、六枚落ちを良くやる、常連の四、五段陣にも聞いてみるつもりだ。
この件については、1筋攻めの解説をアップした時、こちらに書いておきたいと思う。


六枚落ち9筋攻めについては、ここまで。主要な手順を紹介しただけなので、上手には、まだまだ「紛れさせる一手」が随所に隠れている。いつか実戦譜を載せることになったら、そういった手も紹介したいと思っている。

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