1999年11月、待望の柿木将棋4が発売された。
柿木将棋には、別に定跡ファイルを作成した人達(日本将棋連盟新潟支部)がいて、こちらを入れると、より強くなるという話も聞いていた。
そこで、この「24万手定跡ファイル」も入手した上で、様々な検討をした。今回は、その検討報告である。
なお、コンピュータは、ペンティアム2の266MHz、メモリ64Mを使用している。
目次
(1)対局した私の感想
(2)読みの技法を解かせた結果
(3)AI将棋2000との対局
(4)その他の機能
(5)結論
(1)対局した感想
まず、最初は、24万手の定跡ファイルを入れないで、レベル7の最強(思考は1手60秒まで)で対局した。
対局したところ、確かに強かったが、すでに、AI将棋2000や東大将棋2でのコンピュータの強さを知っているだけに、こんなものかな、というのが、実感だった。
つまり、最初に対局した実感は、その他のコンピュータソフトと、ほぼ同じくらいの強さに感じたということだ。
ところが、この定跡ファイルを入れたとたん、明らかに強くなった感じを受けた。
特に、コンピュータの居飛車穴熊に対して、藤井システムを使うと、非常にうまく指し回し、なかなかすぐにつぶれなかった。
しかも、定跡から外れた所からは、入れていない時と同じ強さのはずなのに、入れた時の方が強くなっているようにさえ感じられた。
弱点は、終盤の入口だ。中盤で、人間側が若干不利でも、終盤に入ると、逆転できる。
AI将棋もそうだが、受けはめっぽう強いのに、攻めが弱い。厳密に言うと、その場面場面で、受けた方が良いのか、攻めた方がよいのかの判断が弱いのだ。
ある程度、受けきって、あとは攻めて楽勝にしておきながら、ひたすら受けている間に、逆転される、というパターンを何回も見た。
対局した感じでは、AI将棋が、二〜三段とすると、やはりこの柿木将棋も、同じ二〜三段という気がする。
但し、定跡ファイルを入れると、一段位アップするように感じた。
実際、定跡ファイルを入れた、柿木将棋4を有段者に対局させたところ、AI将棋に勝ち越していた、三段陣が、柿木には苦戦していた。
四段になると、まだ人間の方が分がいいようだが、それでも結構いい勝負になる。
なお、さすがに五段陣だと負けない(但し、レベル7で1手180秒の最強にした場合は試してないので、より強くなるのかどうかは分からないが、1手に2分もかかるのでは、さすがに指す気にならない)。
これらの対局を見ると、コンピュータソフトも、いよいよ四段に近くなったか、という感じを受けた。
ところで、これだけ強くなったら、もう二枚落ちでは歯が立たないと思って、対局したのだが、これが不思議だ。
二枚落ちでもそこそこいい勝負になってしまう(24万手定跡ファイルには、二枚落ちの定跡があるにもかかわらず)。
このことは、私が、三段の人間に対しては、二枚落ちで、ほとんど勝てないことを考えると、かなり不自然な感じがする。
人間の指し手に近くなったとは言っても、やはり微妙に指し手の意味合いが異なり、駒落ちは苦手なのかも知れない。
(2)読みの技法を解かせた結果
今までの検証と同じく、「読みの技法」を解かせてみた。
「世紀末パソコンソフトの実力」に載せたものを再掲し、柿木将棋を追加したのが下図である。
| AI将棋2000 | AI将棋3 | 東大将棋1 | F−将棋 | 柿木将棋4 | 柿木の指し手 | |
| 第1問 | 10点 | 10点 | 5点 | 0点 | 0点 | 4六銀 |
| 第3問 | 10点 | 10点 | 10点 | 0点 | 0点 | 8五金 |
| 第5問 | 5点 | 5点 | 5点 | 0点 | 10点 | 7五歩 |
| 第7問 | 5点 | 10点 | 5点 | 5点 | 5点 | 3三桂6五銀 |
| 第9問 | 10点 | 0点 | 0点 | 5点 | 10点 | 5六金 |
| 第11問 | 0点 | 0点 | 0点 | 0点 | 0点 | 4三歩成 |
| 第14問 | 5点 | 5点 | 5点 | 5点 | 5点 | 4七金4四歩 |
| 第19問 | 5点 | 5点 | 5点 | 0点 | 5点 | 9八香3三歩 |
| 第20問 | 5点 | 5点 | 0点 | 0点 | 0点 | 4三角 |
| 第22問 | 10点 | 10点 | 10点 | 10点 | 10点 | 3五歩同飛 |
| 合計得点 | 65点 | 60点 | 45点 | 25点 | 45点 |
意外なことに、点数が低かった。
特に1問3問を間違えたのが、響いている。
読みの技法は、かなり正確に棋力を現していると考えていただけに、ちょっと意外な感じがした。
(3)AI将棋2000との対局
対戦は全部で、10局行った(対戦は、消費時間がほぼ同じになるように組んだ)。
第一ラウンドは、定跡ファイルを入れない柿木将棋4のレベル7(一手30秒)対AI将棋2000のレベル6の対局4局。
第二ラウンドは、定跡ファイルを入れた柿木将棋4のレベル7(一手30秒)対AI将棋2000のレベル6の対局4局。
第三ラウンドは、最強対決ということで、定跡ファイルを入れた柿木将棋4のレベル7(一手60秒)対AI将棋2000のレベル7の対局2局。
対局方法は、前回の方法と同じで、一台のコンピュータに対局ソフトを二つ起動させ、人間(私)が、コンピュータの指した手を、もう一方のソフトの人間側の指し手に入れてやるという方法である。
(なお、こういうやり方については、以前メールで、メモリの奪い合いが生じるのではないか、とのご指摘もあったが、現状では、同じ性能のコンピュータでの対局が不可能なので、やむを得ないと考えています。)
その結果は次のようになった。
10局全ての棋譜はこちら(Kifu for Windows95にコピーし貼り付けることで、簡単に対局の再現ができます)
| 消費時間 | 柿木将棋レベル7 | AI将棋レベル6 | 消費時間 | 戦型と手数 | ||
| 定跡なし | 第1局 | 20分9秒 | 先手● | ○ | 16分39秒 | 左美濃対向い飛車126手 |
| 第2局 | 10分8秒 | 後手○ | ● | 10分38秒 | 相掛かり94手 | |
| 第3局 | 16分46秒 | 先手○ | ● | 10分7秒 | 横歩取り113手 | |
| 第4局 | 19分42秒 | 後手○ | ● | 12分41秒 | 横歩取り124手 | |
| 定跡あり | 第5局 | 15分52秒 | 先手○ | ● | 11分3秒 | 相居飛車103手 |
| 第6局 | 16分54秒 | 後手○ | ● | 13分36秒 | 矢倉106手 | |
| 第7局 | 13分54秒 | 先手○ | ● | 10分15秒 | 角換り腰掛け銀105手 | |
| 第8局 | 13分6秒 | 後手● | ○ | 10分14秒 | 三間飛車対左美濃111手 | |
| 以下1手60秒 | 以下レベル7 | |||||
| 第9局 | 28分21秒 | 後手○ | ● | 31分36秒 | 力戦中飛車118手 | |
| 第10局 | 50分24秒 | 先手● | ○ | 45分52秒 | 相居飛車196手 | |
| 7勝3敗 |
見ての通り、柿木将棋の圧勝と言ってもいい内容だった。
対局の中身も、ほとんど柿木将棋が優勢に進めていたが、第10局に限って言うと、必勝になっておきながら、受けすぎて、逆転されていた。
このような逆転は、人間との場合でも多く、攻めと受けとのバランス感覚に弱点があるようだ。
不思議なのは、定跡ファイルを入れた場合でも、入れない場合でも、3勝1敗で、同じ勝率だったこと。
対局内容も、同じような感じで、定跡ファイルの効果があったのだろうか、とこの結果を見ただけでは、疑ってしまいそうだ。
(4)その他の機能
機能そのものは、フリーソフトの、Kifu for Windows95に非常に近いものがある。
操作方法が同じなので、すでに使っている人には、たいへん使いやすい。
他に詰将棋を解かせる機能もあるが、35手までしか解けず、残念ながらそれほど強力とは言えないようだ。
実戦の難解な詰みを解かせて見たが、30分立っても、解けなかったので、途中で中断した(東大将棋2が解いていたもの)。
機能そのものは、使いやすく便利なのだが、(勝手な言い分だが)フリーソフトにもあるだけに、お金を出して買った割には、特にそれ以外の機能があまりないのがちょっと不満だ。
(5)結論
さて、まだ、半月という短い期間しか使っていないが、一応ここまでの感想をまとめておこう。
「強さ」という事においては、定跡ファイルを入れた柿木将棋4は、現時点では、最強のソフトと言ってもいいと思う。
コンピュータソフト全体に言える事だが、悪くなった時に、勝負手を出すことがない(じり貧に甘んじる)ので、まだ四段以上の棋力があれば、それほど負けることはないが、それでも四段の人が「面白い」と感じるようなソフトにまで、成長してきた、と言える。
今回、いろいろ検証したが、不可思議なことが多かった。
たとえば、読みの技法における、点数の低さであったり、定跡ファイルを入れた場合と入れなかった場合とで、AI将棋との対戦成績が同じだったりしたことなどであるが、それでも人間が指した感じでは、定跡ファイルを入れたことにより、強くなっているのは確実である。
指し手そのものも、じり貧でも「投了しない」ことを別にすれば、非常に人間の指し手に近いものを感じた。
隙を見せないと攻めてこないのは、AI将棋と同じであるが、それでもAIに比べたら、待ちの姿勢はそれほど強くない。反面、AI将棋のような、中盤でのしぶとい受けがないので、一旦悪くしてしまうと、挽回するのが難しいようだ。
しかし、攻めてこない、というのは、あくまで四段以上の人が、ちゃんと駒組をしている場合だからであり、三段以下の人の場合は、結構すぐに攻められて困っていた。
三段以下の人なら、勉強用に買っても充分使えそうだ。
単に対局するだけでなく、たとえば、自分の負けた棋譜を入力し、どう指せば良かったかを、コンピュータに聞く、なんて使い方も今後は役に立ちそうだ。
最後に、大いなる不満を一つ。
柿木将棋に限ったことではないが、駒落ちがあることを別にしても、レベル1や2でも強すぎるのではないだろうか。
AI将棋2000を買った、私の友人(7〜8級)が、「レベル0の接待レベルしか勝てない」と言って嘆いていた。
今回、柿木将棋のレベル1を試してみたが、ちゃんと筋良く攻めて来ていたし、結構強い。
これでは、初級者では、全然勝てないんじゃないかと心配してしまう。
より強くなって発売されるのも、楽しみだが、これだけ筋が良く、勉強に使えそうになってきた以上、レベルの段階を均等(10級から四段まで)にして、全ての将棋を指す人が楽しめ、役に立つようにしてもらいたいものである。
1999年12月28日作成