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将棋に関するミニ感想

2003年9月
9月17日(水)   なぜ羽生マジックは出なかったのか?(王位戦第5局)
谷川、羽生の王位戦が、幕を閉じた。7番勝負が5番で終わってしまったのは残念だが、どの戦いも面白く、さすがにこの二人のタイトル戦は見応えがあり、客を呼べる将棋だ。

しかし、第5局。この最終局だけは、実況を見終わった時は、ちょっとあっけなく終わったように感じた。それは、谷川が終始リードし、そのままゴールへ飛び込んだように見えたからだ。ところが、週刊将棋を見て驚いた。終局10手前の手が敗着で、そこでは、先手の羽生に勝ちがあったと言うのだから(王位戦第5局速報感想)。

その終局10手前、羽生は銀を不成で飛車を取ったが、もし成っていれば、羽生の勝ちだと言うのである。成りそのものは、いかにも筋の悪い手だが、羽生ほどのものが発見できない手ではないだろう、そう週刊将棋を読んだ時は感じていた。ところが・・・。
その局面を、将棋センターに来ている五段の人と二人で検討したら、検討すればするほど、複雑な終盤であることが分かってきた。

なぜ、羽生は、そこで、銀を成らなかったのか?成って、勝ちをもぎ取っていれば、きっと「羽生マジック」の文字が週刊将棋のトップを飾っていたに違いない。と言うわけで、今回は、その局面を前回ほどではないにしろ、またここで解説してみたいと思う。


左図が、その局面である。
まず、この局面を簡単に説明しよう。

先手の羽生が、▲6二銀と飛銀の割り打ちを打ち、谷川が、「両取り逃げるべからず」の格言通り△8七歩成と切り込んだところ。

この△8七歩成は、詰めろではなく、二手すきとなっている。したがって、後手玉に一手すきをかけ続けて寄せ切れれば先手の勝ちになると言う場面。そのことを前提に以下の話を読んでもらいたい。

ここで、実戦では、羽生は、▲5一銀不成と飛車を取った。そして、△8八と▲同金△6八角と谷川に一手すきをかけられ(△7九金▲9八玉△8九角▲同金△8七銀まで。銀を受けに使ってしまっても、△8七角▲同金△同桂成から詰む)、以下▲5二飛△5三銀▲7八玉△5九角打▲6六歩△8七歩までで投了した。

局後の検討では(週刊将棋)、▲5一銀不成が敗着だと言う。ここで、▲5一銀成と成っていれば、先手の勝ちになっていると言うから驚きだ。その手順は、▲5一銀成△8八と▲同玉△5九角(詰めろ)▲5二飛△5三銀▲6六桂△6五玉▲5七桂△7六玉▲7七歩△7五玉▲7六銀と先手の詰めろを消してしまえば、先手の勝ちになるのである(以下△8四玉▲8二飛成△8三歩に▲9六歩又は▲9二成香など)。

5一銀成と不成の違いは何か。それは、▲5二飛に△5三銀と合駒し、▲6六桂と打った時、△6三玉と下がる場合にその違いが出る。つまり、銀成りなら、その時、▲5四銀と打つことが出来る(▲5一銀不成では、▲5四銀に△5二玉と飛車を取られてしまう)。▲5四銀以下は、△同銀▲同飛成△7二玉▲5二龍△6二金(金以外の合駒は▲6一龍)▲6一銀△8一玉となる(△7一玉は▲6二龍△同玉▲5二成銀△6三玉▲5三金までの詰み)。ここで、▲6二龍と金を取っても、金を使ってしまったため、先手玉は詰まず、先手の勝ちだが、この局面そのものにも詰みがある。その手順は、▲8二成香△同玉▲6二龍△8三玉(△7二香合は▲同銀成△同金▲8五香以下)▲9三金△8四玉▲8二龍△8三歩▲同金△同金▲8五歩△同玉▲8三龍△8四金▲9六金△7六玉▲7七歩△6五玉▲5七桂△7五玉▲8六金△同玉▲8四龍△8五歩▲7六金まで。

この詳細な詰み手順は週刊将棋には載っていなかったが、成りと不成の違いについては、解説があり、正直、この解説を見た時は、1分将棋とは言え、なぜ、羽生は気づかなかったのだろう?と不思議に思った。しかし、検討していくと、変化はこんな単純なものではないことが徐々に分かってきた。

まず、上図▲5一銀不成の局面で、主な有力手は、▲5一銀成の他にも、二つある。一つは、▲6六桂で、もう一つは一旦▲8七銀とと金を精算する手だ。
もっとも▲8七銀については、対局者はそれほど考えていなかったかもしれない(プロ的に見て、手が延びないと直感的に分かっていれば)。△同桂成▲同金にやはり△6八角と打たれてしまうからだ。この手は詰めろではないが、歩成りの局面と同じ二手すきだ(次に△8六歩の詰めろが来る)。

一方、▲6六桂は、難解だし、有段者なら一目打ちたいところ。△6三玉なら▲5一銀で、今度こそ不成がピッタリだ。また、△6五玉と上がるのは、▲5七桂△7六玉▲7七銀打と上部を厚くし、▲7三銀不成と金を取る変化で勝ちになるだろう。
と言うことで、▲6六桂には△4五玉とこちらに上がる一手だ(と思う)。すると、▲5一銀不成と取った手が▲4六飛の一手詰めとなる。
ここで、後手の一目は、△4四玉の早逃げだ。しかし、▲5二飛と打たれても、▲8七銀とここで精算されても(桂が一枚入るため)かなり難解。しかし、△4四玉のところでは、△6八角と言う妙手がある(この終盤戦では、たびたび出てくる)。どうも、この手で、ぎりぎりだが、後手が残しているように見える。

こういった、非常に有力な▲6六桂の筋を読みながら、足らないと考えて、▲5一銀と飛車を取ったのだと思う。ここで、感覚的には、不成が普通だ。成りはかなり筋が悪い。しかし、羽生は、感覚的に悪くても、その正着である例外を指すことも多い。それは常識にとらわれない深い読みの裏付けがあるからで、それ故、「羽生マジック」と呼ばれて来た訳だ。そして、この場合も不成と成りの違いを当然読んでいたはずだ。なのに、なぜ成らなかったのか?


成った場合の一つの変化として、▲5一銀成△8八と▲同玉△5九角▲5二飛△5三銀▲6六桂に△4五玉とこちらに上がる手がある。(左図)

この後、一目は、
▲5四銀と打ち、△4四玉▲5三銀不成△3三玉に▲2四銀△2二玉▲3二飛成△同玉▲2三銀成△同玉▲2四歩△2二玉▲2三歩成△3一玉▲2二とまでの詰みだ。またその変化として▲2四銀に△同歩は、▲3二飛成△同玉▲2三金△同玉▲2四歩△3二玉▲2三歩成△3一玉▲2二とまでとなる。

この詰み筋は、自分らレベルでも1分あれば読み切れる変化。当然羽生なら2〜3秒で(最後の詰み形が)見えると思う。しかし、この手順には、実は、穴がある。それは、▲2四銀△同歩▲3二飛成△同玉▲2三金と打った時、△3一玉と落ちて詰まないのだ。

しかし、しかしだ。もし、この時、▲5一の銀が
成りでなく不成なら▲4二銀成までの詰みとなるのである!

では、銀成りでも勝ちがないじゃないか、と言うと、実は別の筋の詰みがある。
それは、▲6六桂△4五玉に▲5四銀ではなく、▲5七桂と跳ねる変化だ(替わりに▲4六歩でも同じ)。以下△4四玉▲4五銀△3三玉に▲3四銀。さらに、△2二玉▲3二飛成△同玉▲2三銀成△同玉▲2四歩△3三玉▲2三歩成△4四玉▲4五金まで。
むろん、この変化だって難易度はほとんど同じ。羽生なら1秒で気づいてもおかしくない変化だと思う。

しかし、▲5一銀と飛車を取るところで、▲8七銀と精算する変化、▲6六桂と打つ難解で有力な変化(その時は、△4五玉に当然▲5一銀不成と不成でなければならない)。単に飛車を取られないように成ると言った単純なことではなく、これら複雑な変化が絡み合った中で、特に△4五玉と逃げる変化の時に、▲5七桂の筋より先に、不運にも▲5四銀と打つ手が見えてしまったのかもしれない。

そう考えた時、筋の悪い▲5一銀成ではなく▲5一銀不成と行った理由が分かるような気がした。



※今回も、入間将棋センター内で、数人の人に、先手を持って、勝ちきれるかどうか試してもらいました(全て三、四段)。その結果、▲5一銀不成が二人、▲6六桂が二人、▲8七銀が二人、他に、▲4六銀、▲9四成香などがありましたが、▲5一銀成を指した人はおらず、先手で勝ち切れた人もいませんでした。

※この局面から、コンピュータソフトに指させた実験を「ソフトが指すタイトル戦最終盤 part2」に書きましたので、そちらもご覧下さい。

※これらの記事(▲5一銀不成と指した理由)は、あくまで想像です。当たっている確率は5%程度で、実際は全然違う可能性の方が高いでしょう。しかし、単純に見えた終盤戦も、非常に複雑だったと言うことを知ってもらえれば、と思い書いてみました(なお、上記の変化も、当然ながらほんの一部に過ぎません)。

9月3日(水)   王位戦第4局の終盤
王位戦第4局の再現

第44期王位戦、谷川王位対羽生四冠。スコアこそ3勝1敗だが、内容は、どの対局も、すばらしいの一言。今回は、「ミニ感想」と言うべきものではない。この第4局の終盤、それも最後の最後、ものすごい戦いが繰り広げられたので、このすごい戦いを少しでも多くの人に(級の人にも)知ってもらいたいと言うことで、水面下に隠れた様々な変化を取り上げて見たのである。

その部分、分かりやすいように、変化手順も入れて、再現できるようにしておいたので、左上の(王位戦第4局の再現)を見ながら、以下の文章を読んでもらいたいと思う。

その問題となる局面は、左図からである。先手が谷川王位、後手が羽生四冠で、この局面に至るまでにも、様々なドラマがあった。しかし、ここからさらなるドラマが展開する。

今、谷川王位の▲6二とと、金を取った手に対し、羽生四冠が、手抜きで△6八金と銀を取ったところである。
ここで、対局者の二人は、形勢をどう見ていたのだろう?実況で見ている時は、この前が羽生四冠が良かっただけに、ここでは、羽生四冠が決めに来たという風に見ていたのだが・・・。

まず、この局面は、どういう局面かと言うことから説明しよう。ここで先手が▲6八金と金を取り返すと、△同龍で簡単に負けになってしまうのは、初級者でも分かると思う。しかし、もし取らなくても、次に△7九金とされると、先手玉は詰んでしまうのである(△7九金▲7七玉△6八銀▲6六玉△5七龍▲7五玉△7四馬(金)まで)。

そこで、先手としては、この筋を受けるか、詰めてしまうしかない。しかし、受けると言っても、相手の龍が強いため、受けきってしまうと言うことはもはや出来ない状態になっている。

ここで、谷川王位は、▲7二とと銀を取る。平凡な王手だが、この応手が意外に難しい。△同馬で一見何でもないように見える。ところが△同馬だと後手が負けてしまう恐ろしい変化が隠されている。

△同馬には▲7一銀と打つ。これを△同馬は、▲8三香成からピッタリ計ったように詰む(変化参照)。また、△9二玉と逃げるのも、とん死だ。△9二玉には▲8二金と打つ。これを△同馬は、▲同銀成△同玉▲8三香成△同玉▲8一飛成以下詰みだ。そこで、▲8二金には△9三玉と逃げることになるが、△8五桂から△7三桂成が妙手(変化参照)。これで、△9二玉も詰みなのである。唯一詰まないのが、△9三玉とかわし、▲8五桂を打たせて△9二玉と引く変化である。しかし、△8五桂を決められては、本譜のように、詰めろ逃れの詰めろをかけられて、本譜より率が悪そうだ。

この膨大な詰み筋を読み切って(おそらく)、羽生四冠は▲7二とに△同銀と取った(ちなみに△同玉は▲6一馬から簡単に詰む(変化参照))。

谷川王位は、▲7一銀を決めて、▲7七玉△7九金の交換を入れた。▲7七玉もすごい手だが、依然、△6八銀▲6六玉△5七龍の詰み筋が残っているし、後手玉は詰まない。


この左の局面だけを見せられれば、確かに▲5六馬は一目だ。△6八銀▲6六玉△5七龍の筋を消し、且つ▲8二金からの詰みを見ている。

谷川王位がこの局面で、▲8二金を打ち、馬を消したので、実況で見ている時は、馬を精算しなければ、きっと先手玉は詰むのだろうと思っていた。

しかし、実際には、(ソフトに頼ったところ)単に▲5六馬でも詰まなかった。だからと言って、この手順前後が成立するかと言うとこれが成立しない。ここで、▲5六馬には、△6五銀▲同銀△7五金と言う手がある。これで、後手玉は詰まず、先手玉はほぼ受けがない。

このような理由から、8二で精算し、さらに▲7一角を決めることになった訳だ。

▲7一角に対し、△7三玉と上がるか、△9二玉と寄るか、これも悩ましい。しかし、正解は、△9二玉しかなく、△7三玉なら、これもとん死なのである。△7三玉には、▲7四歩と打つ。これを、△6三玉とかわすと、▲5三角成△同玉から▲5一龍と言う筋で詰む(変化参照)。また、△7四同玉と取っても、▲5二馬と入り、△6三金合の一手に、▲6六桂△7三玉▲5一馬と言うすごい手があり、合駒の悪い後手は詰んでしまうのである(変化参照)。

さて、これだけ決めて、谷川王位は、▲5六馬と引いた。この手は、▲8四桂の一手詰めであると同時に△6八銀からの詰めろを防いだ手で、いわゆる「詰めろ逃れの詰めろ」である。

これに対して△7四歩はいかにも手筋。同馬と取らせれば、5七の地点に利かなくなるので、いかにも(先手玉が)詰みそうだし、このままでも詰めろになっているため、これも詰めろ逃れの詰めろなのである(△7四歩を打った局面での詰め手順は、△6八銀▲6六玉△5七銀不成▲同馬△5五銀▲同玉△5四金▲6六玉△5五金打▲7七玉△7八龍まで)。

しかし、▲7四同馬と取っても、まだ先手玉は、詰む状態になっていなかった。


ところで、▲5六馬の局面。△7四歩は手筋なので、簡単に通り過ぎてしまったが、後で検討している時に、ここで、△6五銀と言う手はないのか?と言う話になった。▲同馬なら平凡に△同歩と取られてまずそうだし、▲同銀なら図のように△7五金で、先手玉は必死である。

この瞬間、後手玉が詰むのだろうと思ったが、一目では詰まない。▲9三銀△同桂▲同角成△同玉▲9一龍△9二金▲8五桂が一目だが△8四玉で残されているように見える。▲8四桂△同歩から▲7六銀や▲6四銀も△6五桂が、逆王手になる。

これで後手が勝ちなら、なぜ羽生四冠は指さなかったのだろう?と言うことになったが、実はこの局面には詰みがある。

詰みがあると分かれば、「今週の実戦の詰み」と同じでそれほど難しくはない。答えは、再現の変化手順の中に載せておいたので、そちらを見てもらいたいと思う。15手詰で10分で二段と言ったところだ。

さて、戻って、149手目▲7四同馬と取った局面である。
この局面、大盤解説では、△6八龍と言う絶妙手が指摘され、先手玉が詰むのでは、と言っていた局面だ。

つまり、平凡に考えれば、△7八龍から考えることになるのであるが・・・。△7八龍▲6六玉に△5五銀。これを▲同玉は、△5四金と打たれ、▲6六玉に△6五金打で、▲同銀は△5五銀まで、▲同馬は、△同歩と取られ、後は簡単である(変化参照)。しかし、この変化は、最初の△5五銀に▲7五玉とかわして詰まないのである。

ところが、△6八龍という絶妙手なら、▲7五玉とかわした時、△6六銀打と言う妙手がある。これが△7八龍でなく△6八龍の効果だ。しかし、残念ながら、僅かにもれがあった。

△6八龍なら今度は、△5五銀にかわすのではなく、▲同玉と取る。△5四金に▲6六玉と引いてこれが△6八龍と△7八龍の違いで、僅かに残していると言う訳。つまり、さらに△6五銀なら▲同銀と取り、△5五金打なら▲7五玉で、△6五同金なら▲同馬△同歩に▲5六玉で詰まないのだ。


こういった似たような筋、様々な水面下にある変化の中から、羽生四冠は唯一の正解を見つけていった。つまり、本譜の進行、△7八龍から△6五銀である。これは▲同銀△同歩▲同馬が絶対だ(左図)。

実況で見ている時は、この後の一手、△7四銀がそれほどの妙手とは思っていなかった(なるほど、うまい手だ!とは思ったが)。

△7四銀は、▲8四桂の一手詰めを消しつつ、次に△6五銀と馬を取れば詰みなので、詰めろ逃れの詰めろである。そして、もし▲同馬と取るなら、△同龍と取るのではない!
△7四同龍と取ってしまうと、▲9三銀△同桂▲同角成△同玉▲9一龍△9二金▲8二銀までの大とん死である。つまり銀二枚入ると、馬がいなくなっても、後手玉は詰みなのである。

▲7四同馬には、△5五銀と言う手がある。▲同玉に△5四金と打って詰みだ(変化参照)。この時、△5九の金が利いているのが、何ともすごい。

実は、実況を見ている時も、このことは分かっていたので、うまい手だと思っていたのだが、後で、検討して、さらに感心することになった。

つまり、この局面、△7四銀と言う手しかないように見えるが、それは本譜の手順を知っているからで、知らないと、△7五銀とか△7五金とか言った手も、かなり有力なのである。

たとえば、△7五銀。これは、▲同馬なら△5五銀と打って、▲同玉△5四金▲4六玉△4五金打▲4七玉△5八龍までのとん死になってしまうのである。したがって、△7五銀なら▲5六玉と逃げるしかないのだ。△7五銀を決めれば、▲8四桂の詰みは防いでいるのが分かる。では、△7五銀▲5六玉に△4四金としばったらどうだろう?とも考えてしまう。しかし、▲8四桂は防いでいても、それ以外の詰めろが生じてしまうのである(これは短手数で難しくないので、考えて欲しい:解答は、再現のコメント欄)。

△7五金ならどうか。今度は、逃げると馬を手順に消されてしまうので、▲同馬と取るしかないが、△5五銀に▲同玉で、さっきと金銀が違うため、僅かに残っているのである。そして、馬は取っても、金を渡してしまったため、後手玉は、▲8二金で簡単だ。

こういった複雑で、そこに正解がありそうな変化まで読みながら、それも1分将棋の中で、唯一の正解である△7四銀を見つけた、と言うことに驚愕の念を覚えるのである。

さて、それでも△7四銀を打ち、実況を見ている時は、さすがにこれは先手どうしようもない、と思った瞬間である、谷川王位の▲8三香成が指されたのは。

一瞬、何これ?と思ったが、△同銀上なら▲8四桂と言う詰みを見ているのである(変化参照)。30秒将棋だと、アマ高段者でも、こうしたとん死を喰いそうである。


△8三同玉の一手に▲7五桂(左図)。何とも恐ろしい手順だ。最後の最後まで気が抜けない。

ここで、羽生四冠は、△同龍と取ったが、逃げるのは、危ないのだろうか?という話が検討している時に出た。

まず、△8四玉と上に逃げるのは、いかにも危なそうだ。▲6二角成に△7三歩合は▲8一龍と言うすごい一手がある。
そこで、▲6二角成には、△7三桂と言う移動合いで応じるのが難解。それでも、▲8一龍という手があり、最後に▲8五銀という妙手まで飛び出して詰むのである
(この詰みは自力で見つけてます(^^)v)(変化参照)。

では、図の▲7五桂に△7三玉と寄ったらどう詰めるのであろうか?実は、2〜3人で(短時間ではあるが)検討したが、寄る変化は、詰められなかった。と言うより、詰まないのでは?と言う話になり、しかし、危なそうだし、△7五同龍で勝ちが見えたから、羽生は取ったんだよ、と言うことになった。

しかし、念の為、ソフトにかけたら、何とこれにも詰みがあった。図から、△7三玉と寄った局面。これは、近いうち、難解な詰みNo.5として出題したいと思うので、解答は、そちらを見てもらいと思う(難解な詰みNo.5)。20分で四段から五段と言った感じだ。

さすがに1分将棋では、いかに羽生四冠と言え、この両方の変化を(しかも△7五同龍の変化もある)、両方とも最後の詰みまでは読み切っていなかったと思う
(過小評価していたらごめんなさい)。しかし、逃げるのは詰み、との直感から(さらに取って勝ちが見えたので)、△同龍と取り、最後の仕上げに入ったと言う訳だ。

ちなみに、△7五同銀を▲同玉と取るのは、△6三桂から並べ詰みである。△6三桂では、△7四金▲6六玉△6五金打としても詰むが、▲9八まで逃げ込まれて、さらに金を使ってしまうため、ちょっと面倒(それでも持ち駒が多いため詰み)。

164手目の△5四金はなんだか危ない手に見える。▲8二飛から▲7二飛成▲3二龍となって大丈夫なのか?と思っていたが、羽生四冠は読み切っていたのだろう。△7三玉で僅かに届かない。しかし、170手目、△7三玉以外はすべてとん死なのである。

たとえば、△6三玉は▲6二龍△7四玉▲6五銀以下である(変化参照)。△8三玉は▲8二龍△7四玉に▲6三銀と捨てて△同玉▲6二角成から最後は馬まで捨てて、ピッタリ詰む(変化参照)。

こういった攻め筋を読み切り、最後は、△6四玉で勝利を手に入れた。

それにしても、すごい終盤戦だった。これだけ変化を書いても、実際の読みの十分の一も伝えてないだろう。直感で捨てる変化まで書いたら、この百倍くらい書かなければいけないかもしれない。しかも1分将棋である。トッププロの読みの正確さ、すごさをまざまざと見せつけた熱戦だったと思う。



※文中の読みは、もしかしたら、間違っている箇所があるかもしれません。また、詰みに関しては、余詰めまでは検討していませんので、変化参照に入れた詰み以外の詰みもあると思いますが、ご了解下さい。

※この局面から、有段者やコンピュータソフトに指させた実験を「ソフトが指すタイトル戦最終盤」に書きましたので、そちらもご覧下さい(上に書かなかった変化も少しあります)。

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