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(5)駒の働きと遊び駒

将棋を勝つ上においては、駒得をしていく、と言うことはもっとも大切なことだが、同時に駒を働かせる、と言うことも同じくらい大切なことだ。
それは、いくら駒得しても、その駒がまったく役に立っていなければ、少しも有利にはならないからだ。

前にも書いたが、私は、初心者の人には、「駒得の次に大事なことは、大駒を働かせることだ」と良く言っている。

この「働く」とかその反対に「遊ぶ」とはどういうことなのか、まず簡単に説明した上で、その働きにどのくらいの評価をするべきかと言うことを考えていきたいと思う。
(1)駒が働いている状態、遊んでいる状態

言葉で定義するなら、「働いている」とは、その駒が受けか攻めのどちらか、あるいはその両方に役立っている状態、あるいは、役に立つ可能性が十分にある状態だ。それに対し、「遊んでいる」とは、その駒が、攻めにも受けにも役に立っていない状態を言う。

そして、駒の働きを見る時は、大駒を最初に見、次に金銀を見る。形勢判断をするときには、桂香や歩の働きを見ることはあまりない(但し、居飛車対振り飛車の戦いでは、右桂の働きで優劣がつくことは多い)。

初心者の人には、特に大駒を働かせることを考えて欲しい。自分の飛角が相手陣で大暴れしていれば、たいてい勝てると思う。

では、具体的に見てみよう。
下の図は、どちらも六枚落ちだ。そして、どちらも駒割りは五分、つまり駒損していないと言う訳だ。

下手(手前)失敗の図 下手(手前)成功の図

しかし図を見てもらえば分かるように、左の図は、下手の飛角が押さえ込まれているのに対し、右の図では、飛車が成り込んでおり、角筋も良く利いている。左は、ただ漫然と駒を動かしていたのに対し、右は、六枚落ちの定跡形から端を破ったのだ。
このように、駒割りは互角でも、駒の働き、特に大駒の働きによって、優劣に大きく差が付くと言うことをまず覚えておいて欲しい。

ちなみに、右の図は、ここから、▲7一成香、▲7二成香と、成香を働かせる手や▲9四歩から▲9三歩成とと金を作る手が厳しくいい手になっている。上手からは、△6五歩と突いて角をいじめに来るくらいだが、定跡の▲5七角でもいいが、▲8八角と深く引いて、5五、4四へ利かしておくのも働きのある良い角となる。


ではもう一つ、「遊び駒」について触れておこう。
下図は、2002年10月の質問掲示板に載せられたものだが(この質問がきっかけとなってこの形勢判断のページを作った)、図で、質問者が▲6七銀を「遊び駒」と呼んでいた。


しかし、この▲6七銀を遊び駒とは呼ばない。これは、しっかり守りに利いているからだ。つまり、後手から反撃するとすれば、1筋の端攻めや5〜8筋からの攻めになるが、この時、明らかに▲6七銀は働くからだ。

しかし、もしこの銀が、8九や9九にいたらどうなるか。その時こそ、遊び駒となる。

しかし、仮に8九にいたとしても、▲7八銀▲6七銀と言うように活用していけば、立派に働きのある駒になる。

このように、遊び駒を働かせる、ということも大切なことである。

また、最後にもう一つ。仮に9九に銀が行ってしまい、その時点では遊んでいたとしても、もし相手の駒に取られてなくなった場合は、もう遊び駒とは言わず、むしろ、「さばけた」として評価される場合が多い。むろん、取られるのだから、損をする訳だが、相手に遊び駒を「取らせて」いる間に、有効な一手を指すことができれば、その損は取り返せると考える訳だ。
(2)働きに対する評価、遊び駒の価値

では、実際に駒の働きには、どのくらいのウエートを置くべきでだろうか。
ここに今は絶版になった「史上最強!ワセダ将棋」と言う本があり、この中に面白い局面がある。

後手、一歩損の局面 さらに角損の局面

「駒損しても飛車は成れ」と題した左の局面から、△4六歩▲同歩△同角▲4七歩△3五銀▲4六歩△同飛▲3五銀△4九飛成となったのが、右の局面だ。そして、この手順と局面をどう評価しているかと言うと、以下は本文の抜粋です。

つぎに▲6五銀と出られては、角が死ぬので、△4六歩とあばれる一手。その後は必然の応酬ですが、後続の△3五銀−△4六同飛がすごい手順で、右図となっては、穴熊側が必勝形です。
そうはいっても信じてくれないと困るので、理由をあげると、(1)玉の固さが段違い(2)駒の効率(居飛車側にむだ駒が多い)(3)攻撃力がいちじるしく違う(4)角損でも、これから、徐々に回復できそう。穴熊必勝です。
(ここまで抜粋)

この本では、アマチュアの場合には(特に棋力が下がれば下がるほど)、飛車の価値が高くなっていくので、少しくらい駒損しても、大駒を働かせる方を優先しなさいと言うことを言っている。

強くなるにしたがい、駒の損得には敏感にならなければいけないが、駒を働かせることは、駒の損得と同じくらい大切なことなので、特に級のうちは、大駒の働きに対する評価をより高くしておいていいと思う。

さて、将棋を指していて、あるいは人の将棋を見ている時は、駒得をしている方がたいてい有利なのだが、大駒が全く働いていないと必ずしも有利にはならないと言うことは理解してもらえたと思う。では、よく遊んでいるのを見る「銀」の場合はどうであろうか。

級位者の将棋では、棒銀に出た銀が、立ち往生してそのまま残っていることや、銀は出たものの、別の場所で戦いが始まり、そのまま残ってしまっている局面をよく見る(有段者でもよくあるが)。

単純に銀がさばけず残ってしまった場合は、もちろん不利だが、仮に別のところで銀得したらどうなるか。もちろん単純に銀得だけなら、駒割りのページで話したように、飛車落ちと同じくらいの価値、プラス16点で必勝だ。しかし、銀得しても、自分の方に遊び駒の銀があるとどうなるか。要はその銀は攻めにも受けにも使えないと言うことで、そこから8点を引きプラス8点だけと見ることもできる。つまりほんのちょっとの得にしかならないと言うことだ。

香得した場合は、プラス10点なので、銀得しても自分の銀が遊んでいれば、せいぜい、香得くらいの評価にしかならないと言う風に考えていいと思う。

遊び駒がいかに将棋の形勢判断に悪い材料となっているか、そのことを充分納得できたら、次のページに進んで欲しい。

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