六枚落ちから八枚落ちを指す時の心得

六枚、八枚落ちで負ける時の原因は大きく三つあります。その原因とは次の三つですので、この三つにならないことが負けない為の三大要素と言えます。

(1)駒損をする
(2)玉頭にと金を作られる
(3)飛角を押さえ込まれる

上記三つのうち、最後までどれも当てはまらないならほとんど負けることはないはずです。
それでは、一つ一つどうすれば良いか見ていきましょう。

(1)駒損をしないこと

将棋で勝つためにはまず駒損をしないこと。これは平手でも同じです。駒の価値は、玉をのぞくと、飛・角・金・銀・桂・香・歩の順に低くなっていきます。
但し、金銀はほぼ同じ、桂香は使い方は違いますが、価値はほぼ同じと考えて良いでしょう。
飛角も有段者の形勢判断ではほぼ同じで見るのですが、初心者のうちは使いやすい飛車が上と考えていた方が良いと思います。

昔の名著、谷川九段の「将棋に勝つ考え方」では、駒の点数を次のように考えています。
飛・・・15点 龍・・・17点 角・・・13点 馬・・・15点
金・・・9点 銀・・・8点 桂・・・6点 香・・・5点 歩・・・1点
さらに、  
成銀・・・9点 成桂・・・10点 成香・・・10点 と金・・・12点

補足として、成駒が逆に高くなっていくのは、相手に渡った時のことを考慮しているからで、点数が高いと言って、金とと金を単純に交換してはいけません。それは金を歩と交換したのと同じと考えれば分かるでしょう。

さて、本にも書かれていますが、この点数を覚える必要はありません。飛角から順に価値は低くなっていくと言うこと、だいたいの価値を感じて頂ければ十分です。
駒落ちの場合、まるまる銀や金を損したり、あるいは飛角を攻められ取られてしまうことが良くありますので、とにかくそうした駒損をしないことが大切であると言うことです。

ちなみに、最初歩を得し、その歩で香か桂を取り、その香(桂)で金か銀と交換し、その金か銀で大駒の一枚と交換することを、(正式な将棋用語ではありませんが)「わらしべ長者」と言っています。
つまり、常に価値の高い駒と交換していくことが、最終的に玉を詰ます時に役に立って来るということです。

(2)玉頭にと金を作られないこと

六枚落ちや八枚落ちのうちから、矢倉に囲ったり美濃にしたりする戦法もありますが、私はその指し方を勧めていません。
六枚や八枚の時には、しっかり端の破り方を覚え、どうすれば破れるのか理解し、さらに自玉に攻め込まれる前に寄せ切ってしまうことを教えています。玉を囲うのは四枚落ちからで十分という考えです。
さらに言うなら、自玉の危険度も、早いうちから身につけていた方が良いと言うこともあります。

しかしそのような居玉で負けるパターンでもっとも多いのが4〜6筋にと金を作られるということです。

そこで、級が上がれば当然のこととして理解できるのですが、まずこの地点にと金を作れないようにすることが大切です。

たとえば左図を見て下さい。今△5六歩と上手に歩を垂らされました。六枚や八枚落ちでは良く見かける局面です。
このような場合は、まずほとんど▲5八歩と歩を受けて置いて大丈夫ですし、受けておかないと危険です。

もし、歩がなかったり、二歩で受けられない場合は、他の金銀で受けておきます。もしさらに三段目(5七の地点)に金や銀を打ち込まれたら、その金銀をほとんどの場合取ってはなりません。それは、△同金(銀)に▲同歩成と三段目にと金を作られてしまうからです。

平手になっても、攻める時はと金、相手に攻められる時はと金で攻められないように指していくのは将棋の基本です。
「5三のと金に負けなし」という格言は、玉が美濃や矢倉に入っていても成立する格言ですので居玉の場合はまさに5三のと金は作られたら必敗と考えるくらい大変なことと思って下さい。

(3)飛車を成ることを最優先にする

三番目は飛角を押さえ込まれないことです。六枚から八枚落ちの下手の勝率が4割から5割とすると、たとえば序盤に端を攻めないで、あるいは間違えて破ることが出来ず、飛角を押さえ込まれてしまったら、その時点で勝てる確率は2割程度になるでしょう。飛車が成れてようやく5割を超えたと言うのが今まで見てきた感じです。

たとえば9筋から、せっかく数の攻めで破っても、飛車を回るのを忘れて、上手の出てきた金を怖れる余り、早めに▲7八金とか銀とか上がってしまったり、6六に出た角を8八へ引き戻して飛車回りがなくなってしまうことが良くあります。

それでも再び、▲2六歩から飛車を使うことを考えれば全然問題ないのですが、9筋に作った成香を、飛車の協力もなしに動かしているうちに、上手にも9筋にと金を作られたり、中央から攻め込まれ受け間違いをしているうちに逆転してしまうのです。

角は飛車が成れるなら、金や銀と交換しても良い場合があるのですが、飛車はまず取られたら勝てないと考えて下さい。中盤で、飛車を取られて下手が勝てることはほとんどありません。

以上三つのことを常に念頭に置きながら指し進めてもらいたいと思います。

他に私が良く言ういくつかの事柄も追加しておきます。
(4)と金と成香は三段目を動く
六枚落ち以上では、飛車を成り込んだ後、必ずと金を作ることを教えますが、そのと金や成香が良く一段目を動いていくのを見ることがあります。これは攻め方としては筋が悪く、と金や成駒は二段目三段目と引くことでより強力になっていくものなのです。龍と協力して三段目を寄っていったならばこれほど上手にとって脅威なものはありません。
(5)詰みが見えない時は王手をしない
3手とか5手で、詰みが見えたら詰ませてもらいたいのですが、詰みが見えないうちは出来るだけ王手をして追ってしまわないことです。特に下段に落とす場合は、追ってもそれほど問題にならずむしろ正しい場合が多いのですが、王手することで、上手玉が上部へ出てくる場合。そのような場合は、まず疑問手になることが多いのです。

左図は、つい先日私が指した六枚落ちですが、うまく右端から破り、香を銀と交換までして下手十分です。
ここで実戦は▲3三龍の王手。初心者にありがちな王手ですが、△6四玉と上がられるとせっかく作った1三のと金が置いてきぼりです。
むろんそれで形勢が悪くなった訳ではないのですが、ここは、▲2三とと寄るのが非常に厳しい攻め。(4)にも書いたように、と金は龍との協力で三段目を寄っていくのです。
もう一手、▲3三とまで寄れば、次に▲4二龍△6四玉▲6二龍と銀をタダで取り(1)の駒損をしないどころか駒得になります。それを嫌って△7三銀と上がっても(▲4二龍△6四玉の後)▲4三とから▲4四とと引けばどうやっても金一枚を取ることが出来ます。

大切なことは、とにかく、詰みを読み切れる時以外は、王手をして玉を上部へ出さないようにすることです。
(6)突かれた歩は▲同歩から考える
歩と歩が向き合っているところで、歩を突かれたらまずは▲同歩と取る手から考えましょう。そして、(六枚落ちや八枚落ちなどでは)ほとんどの場合、▲同歩と取ってまずいことはありません。

左図は、実戦ではなく部分的な局面として見て下さい。

まず△7五歩と突かれた場合。上手はここくらいしか攻める所がないので、六枚や八枚では非常に良く出てくる局面です。当然△7五歩には▲同歩です。
ここを手抜きし、歩を取られながら上手の歩に進まれることは、見た目以上に紛れることが多いのです。▲同歩△同金と進まれてもたいしたことはないと思えることが大切です。

また、実戦がかなり進んだ局面で△4六歩と突かれた場合。手抜きして△4七歩成は最悪です。(2)の「と金を作られないこと」に反しますね。実戦で似たような局面を見たのですが、その時は▲4六同歩と取らず、▲4八金と上がったのです。そして結果として△4七歩成▲同金△4六歩と位を取られ、4七の地点に後で駒を打ち込まれています。
ここでも▲同歩△同金と進まれてもたいしたことはないし、受けるならそれから受けても間に合います。
(7)上手の玉が四段目に上がってきたら、その上部を押さえる
六枚落ちで上手の玉が下段にいることはあまりありません。やはり下段にいるとすぐに捕まるからで、大抵は二段目か三段目に上がって対応します。
そしてさらに追われるとほとんどの上手は四段目に上がります。その時、すでに下手陣にと金でも出来ていれば、一目散にそのと金に向かって逃げていくかもしれません。

その時の状況にもよるのですが、上手玉が四段目に上がったら、早めに上部を押さえて下さい。たとえば、△7四玉と上がったら、まだ遠いようでも、じっと▲7八金。このくらい遠くから駒を繰り出しても間に合うはずなのです。
下から追っても、正確に追えば六枚や八枚では入玉は出来ないのですが、何度か間違えると入られてしまうこともあるからです。そして、そうした戦いでは有段者が何枚も上手ということです。

左図は、(5)の局面から▲3三龍△6四玉と進んだ局面です。▲3三龍は疑問なのですが、それでもここまでの指し方がうまかった為、まだまだ下手十分です。
ここで▲2三とから▲2四とと使ってもまだ間に合いますが、△5六歩や△7六歩などいろいろと嫌みな手段があります。

このような玉頭での戦いで、上手玉の上部を手厚くされると紛れる要素が増えますので、このような時は、下手も金銀を繰り出すのが負けにくい手段となります。
ここでは▲6六銀が厳しい一手ですが、たとえば▲6八銀とか▲5八金とか玉頭戦に備えておく手もそれが悪い手になることはほとんどありません。

玉が上に出てきたら、上から押し返す感じ。早め早めに上に待ち駒を置いて下手陣に入って来ないようにして下さい。
(8)と金と成香は、金銀二枚と交換することを考える
飛車を成り込み、と金を作り、そのと金と成香を寄っていって、その時自陣はまだ安泰なのに、それでも負けることがあります。

一つにはうっかりしてせっかく作って手数をかけて寄せて行ったと金や成香をタダで取られてしまった時です。見落としはある意味仕方ありませんが、もう一つは、と金と成香の二枚と金か銀の一枚としか交換出来なかった時です。そうすると攻め駒としては、龍の他に持ち駒の金駒一枚しかない為、なかなか寄せられないのです。と金と成香は、それぞれ金駒一枚ずつと交換するのを目標として下さい。

たとえば左図。▲3二成香に△4三金と上がったところですが、ここですぐに▲3三とは△同銀でも△同金でもどちらか一枚しか入りません。それでも駒得ですので、悪くはないのですが、ここではもっと良い手があります。
それは▲2二龍と一回ためる手です。次に▲3三とが狙いですが、上手はこの地点に足したい駒がありません。
(▲2二龍の後)▲3三と△同銀▲同成香△同金▲同龍と進めば金銀二枚と交換したことになります。実戦は、これでは上手がひどすぎるので金銀を逃げることになりますが、と金と成香で追いかけていけば金駒を取ることが出来るでしょう。

なお、3三の地点ならと金を作って間もないので、間違って取られてもそれほど大きな被害はないのですが、たとえば6筋7筋位まで手数をかけたと金や成香をタダで取られると、本当に逆転しますので注意して下さい。
(9)六枚落ちまでは端の破り方と寄せ方を覚える
六枚落ちまでは、端に駒を集中すればたとえ相手がプロでも必ず破れます。つまりこの駒落ちまでは、「正確に端を破り、そこから寄せ切る」ことを覚えます。そうなれば六枚落ちは卒業ということになるのです。

破るのは定跡がありますので、少し勉強すればすぐに破れますが、寄せは千差万別です。その局面ごとに少しずつ違ってきますので、これは実戦で、その都度覚えるしかありません。短い詰将棋ややさしい必死問題はもちろん役に立ちますが、それよりもどうすればこの局面で寄っていたか。感想戦で上手や私の言うことを良く聞くことが一番ですので、それを聞いて身につけていってもらいたいと思います。