ホームへ戻る/ミニ感想表紙へ

将棋に関するミニ感想

2003年10月
10月29日(水)   近代将棋の不詰作
二ヶ月近く前の話だ。
将棋センター内で、そろそろお開きになろうとした雰囲気の中、いつもよりちょっと早かったので、自分が、「じゃあ、近代将棋の詰将棋でも、みんなで解いてから終わりにしましょうか?」と言って、近代将棋10月号の「力だめし詰将棋」を開いた。


残っている者が、皆四、五段だけだったので、「この4番目を解いてみましょうよ。」と言って、盤に並べた。それが、「悲しみの回廊」と名付けられた、左の詰将棋だ。

こういう風に盤面全体に駒が配置されているものは、見ただけで、躊躇する人が多いが、何らかの趣向になっている場合は、それほど難しくないことも多い。

皆で、わいわい言いながら、検討していたので、30分くらいで、ある程度の手順が分かってきた。
つまり、初手は▲7七角の一手で、△8六桂と中合いする一手。▲同角△9六玉▲9七飛△8六玉▲8七銀。ほとんど紛れもなく一直線だ。そして、△7七玉に▲7八銀から玉を追い回す趣向が始まる。

「これなら、それほどかからず詰みそうじゃない。」とみんなで、駒を動かしながらその趣向の面白さを鑑賞していた。

ところが、玉を追い回して、行って来た後が続かない。45、6手までは、間違いないような気がするのだが、そこから先へ進めない。
40分くらい考えたろうか。そこから容易に進展出来なかったので、「よし!ソフトの力を借りよう。」と言って、私が、ソフトに入力してみた。
昔は、どんなに難しくても、自力で解くしかなかったが、今は、ソフトがある。ソフトにある程度解いてもらって、その先へ進んで、また考える。
難解な長編詰将棋ならそんな鑑賞の仕方もありかな、と思う。もちろん、自分一人なら、解けるまで考えるが、みんなと一緒に、長編詰将棋のすばらしさを共有するには、こんなやり方もあると思うのだ。

そんな訳で、柿木に入れて、詰将棋のアイコンをクリック。

ところが、なかなか解けない。5分待っても解けない。変化多いのかな、と思い、今度は、東大に入れて、解かせてみる。余詰め検討など、若干使いづらい面はあるが、東大の方が、ほとんどの場合、早いからだ。

ところが、解けない!5分経ち、10分経った。あの、611手詰の「図巧100番」でさえ、10秒程度で解くのに。
「不詰じゃない?」の声が出始める。

しかし、ソフトを過信するのは危険だ。かなり変化の多いものは、解けないのもあるし、誤答するものもあるからだ。近代将棋を信用するか、ソフトを信用するか二者択一。もっとも、ソフトが解けないので、これ以上、誰も考えようとしなくなったのは事実。と言う訳で、結局、ここでお開きとなった。



その日の夜、布団に入ると、やはり、この詰将棋の行き詰まった局面が、頭の中から離れない。で、うとうとしながら30分くらい考えていたのだが、ふとひらめいた。「そうだ!こうすれば、上部へ追い出せるじゃないか!」そして、やっと追い出すことに成功し、これなら詰みまであと少しだろう、と思った局面が、左の図である。

玉は動けないし、変化もそれほどない。▲5三龍△7四玉に▲5二角成と桂を入手し▲8六桂△8五玉に、▲8三龍。後少しなのだが、△8四金と合駒されて届かない。

結局、この局面を1時間くらい寝床で考えていただろうか。しかし、解けないまま、眠ってしまった。

朝起きて、パソコンを立ち上げると、一番にこの局面をソフトに入れて見た。すると・・・数秒で、「不詰です。」の文字が。「うぅ、、、追い出し方を間違えていたか?」とこの時は思った。

そして、さらに別の追い出し方を考えてみる。しかし、分からない。結局その後、さらに1時間くらい考えたが、それでも分からなかった。と言うより、やはり「不詰では?」との思いが強く、これ以上考える気にならなかったのである。

そして、2ヶ月後の解答を首を長くして待っていたのだ。

その間、何度も近代将棋のホームページへ行ってみた。もし、不詰だったら、当然、ホームページに載せるだろうとの思いがあったからだ。しかし、私が見た限りでは、どこにもそのような発表はなかった。だから、きっと、ソフトも解けないような難解な詰将棋に違いないと、12月号の発売をじっと待っていたのである。

26日に買って来て、まず一目散に力だめし詰将棋の解答を見る。

「誤植により不詰でした。」っておい!

あらためて再出題させていただきます、とあったので、見てみると、5四に相手方の金がある。なら、上の途中図から▲5四とと取れるじゃない!後はやさしい。

むなしい。不詰の詰将棋を何時間も考えることほどむなしいものはない。「不詰に罪あり、余詰に罪なし」
(だったかな?)と言う言葉があるくらい、不詰は罪なのである。

無駄に費やした3時間を返してくれ!と言いたい。腹も立ってくる。いや、誤植にではない。間違いはあっても、それは人間のやる事だから仕方がない。でも、何のためのホームページなの?誤植と分かった時点で、ホームページに載せることが当然じゃないの?速報性こそが、ネットの最も優れているところだと思うのだけど。

もう、近代将棋の詰将棋は信用しないことにした。これから詰将棋を解くときは、30分して解けなかったら、まずソフトに解かせて、解けることを確認してから解くことにしよう。そう言えば昔、近将の難解な詰将棋を解くのに、20時間以上も費やしたことを思い出した。もし、それが不詰だった日には・・・。そういう意味では、ソフト様々とも言える。

ちなみに、この完全な「悲しみの回廊」をソフトに解かせてみたら、数秒で、解が出た。
・・・・・それはそれでちょっとむなしい。
10月8日(水)   超難解詰将棋

今回は、常連のお客さんが持ってきた左の詰将棋の話。

まず、道場三段以上(24で初段以上)の人、及び詰将棋に自信のある人は、ノーヒントで(この下を読む前に)、挑戦して見て欲しい。あの羽生が10分かかったという詰将棋だ(真偽のほどは定かでない)。

ちなみに私も解いてみたが、40分くらい考えたあげく・・・(以下は本文に)。

難易度は、30分でプロ級。2時間でアマ五段、解ければ三段以上としておこう。

なお、この下には、かなり大きなヒントが書かれている。どーーしても解けなかったら、それを見てから再チャレンジを(解答は、一番下のリンク先へ)。




日曜日のこと。いつも早めに来店する五段のTさん。まだ、誰も来ていなかったので、おもむろに、盤上に駒を並べ始めた。それを見て、私が、「詰将棋ですか?」とのぞき込むと、「これ、ずいぶん前に人から見せられて、解けなかったものなんだ」と。

しかも、あの羽生が解くのに10分かかったと聞いているとのこと。「へぇー」と言いながら、しばらく考えてみるが、なかなか解けない。すぐに、お客さんが何人も来たので、手合いをつけて、一旦はおしまいにしたが、席主の仕事の合間を見つけては、40分くらい、この詰将棋を考えていた。

そこで、考えた手順は、・・・・・。(以下は仕事をしながらの頭の中)
まず、一目は、▲2三金か▲1三香成だな。▲2三金だと、△同玉▲2一龍に合駒。さらに▲1三香成に△同香や△同桂は▲2四歩で簡単か。△同玉の一手。そこで、▲1四歩から▲1二龍で詰みそう。でも、△2二の合駒が金だと、▲1二龍が出来なく、この変化は詰みそうもない。ふむ。

では、初手▲1三香成か?△同香や△同桂は、▲2三歩でやさしい。△同玉の一手か。▲1四歩は△同玉で届きそうもないので、▲2四金か?△2二玉に▲2三歩は△1一玉なので、▲3二龍△同玉かな?▲3三歩△同桂に▲2三金打なら△4一玉で届かない。かと言って、▲3一金は△2二玉か。▲3三歩を打たずに▲3一金だと、△2二玉に▲2一金△同玉▲4三馬。(以下、この変化を追うが、詰まない)

まてよ、▲3三歩△同桂の後、▲4二金と打つと?△2一玉は▲4三馬で詰むな。△2二玉なら▲3三金だ。でも、これを取らずに△1三玉と上がられると王手が続かないか。

▲1三香成△同玉▲2四金△2二玉に▲2三金と捨てる手もあるな。しかし、△同玉▲2一龍にやはり△2二金打で続かない。しかも、この手順は、▲2四金で、▲1四金でもオッケー。ってことは、余詰めになるので、作意じゃないな(←難解な詰将棋を解く小技:ちょっとずるい)

▲2三金、▲1三香成以外の手としては、▲3二龍もありそう。同玉に、筋は悪いが▲3一金。これに△2二玉なら▲2一金で詰みだ。しかし、△2三玉と逃げられると、僅かに届かない。

他に王手を片っ端から考えると、▲3一馬、▲3一龍、▲2一龍、▲4四馬、▲3三金などがあるが、どれも普通に取られて、全然ダメそう。

うーん、やはり初手は、▲1三香成が本命、▲3二龍が対抗だな、と思う。(ここまでで、すでに30分くらい考えている)

▲1三香成△同玉に▲3一馬と言う手もある。△同金に▲4三龍。しかし△3三に合駒されて届かない。逆に▲1三香成△同玉に▲4三龍もある。△同金なら▲3一馬だ。しかし、取らずに△3三歩で▲2四金△2二玉▲3二龍とかなり迫れるが、ギリギリ届かない。うーん。

とそこで、ひらめいた。▲1三香成△同玉に▲2四銀!△同玉の一手に、▲2一龍だ。△2二への合駒なら、なんでも▲3六桂△1五玉▲1六歩△同玉▲1七金△1五玉に▲1二龍で詰み。△2三への合駒も似たようなもの。ついに本筋に入ったか?と思ったのだが・・・。

▲1三香成△同玉▲2四銀△同玉▲2一龍に△2三桂が、頑強な抵抗。▲3六桂に△3四玉と逃げて、▲3五金なら△同桂だ。しかし、何かあるのでは、と思いつつ、この変化を掘り下げる。

しかし、詰まない。正味40分くらい考えた時、本当にこの図面、合っているのかな?との疑念が頭の隅に。なんと言っても、持ってきた紙がメモ用紙だ。ちょっと配置が間違っているとか、ありそうに見えたので、こっそり柿木にかけてみた。もちろん、手順のウインドウは出さないようにして。とにかく、詰むのかどうかさえ分かれば、それでまた詰めようとする意欲が沸くのだ。

コンピュータでも結構時間がかかった。40秒くらいして、15手詰との表示が出る。そして、その時。ああ、その時!その表示と一緒に、初手が載っているではないか!

見るつもりもないのに、見てしまった、初手!・・・しかも、驚愕の一手。
初手を知ってしまうと、もうこの詰将棋の難易度は激減する。実際、私は、この後、2、3分で詰みを確認した。おそらく、これだけのヒントを出せば、10分から15分で四段くらいのやさしいものになってしまっただろう。

しかし、この初手!今まで、ずいぶん多くの詰将棋を見てきたつもりだが、これほどの手はそう多くはない。ふと、このミニ感想でも書いたことのある、あの5手詰を思い出してしまった(ミニ感想3月分)。

おそらく初手を知らなかったら、後1時間は、迷路をさまよっていたに違いない。それでも、自力で解きたかった。難しければ難しいほど、悩めば悩んだ程、解けた時の、驚きと感動は大きい。この瞬間があるからこそ、(普通の人には理解されない)詰将棋にハマってしまう、とも言えるのだ。

・・・にしても、この詰将棋を僅か10分で解く、羽生の頭の中って!

この詰将棋の解答

ホームへ戻る/ミニ感想表紙へ